武道ツーリズムネットワーキング
スポーツ庁では令和5年度「スポーツによる地域活性化・まちづくりコンテンツ創出等総合推進事業」の一環として、武道等の地域スポーツ資源を活用したスポーツツーリズムコンテンツの創出に向けた取組をモデル的に支援するほか、ポストコロナを見据え、スポーツツーリズム・ムーブメントの創出を積極的に推進している。
これら本年度推進事業の事務局を受託しているJTBコミュニケーションデザインは、武道ツーリズムに取組む事業者間の情報共有とネットワーキングの機会創出を目的として、
「武道ツーリズム小会議(武道ツーリズムネットワーキング)」 を、令和5年11月7日、JTBコミュニケーションデザイン会議室にて開催した。
参加者は、
スポーツ庁 から担当者2名、プロジェクト委員として、
原田宗彦氏 (大阪体育大学 学長、一般社団法人日本スポーツツーリズム推進機構代表理事)、
伊藤央二氏 (中京大学スポーツ科学部 准教授)、
利渉敏江氏 (東日本旅客鉄道株式会社千葉支社・地域共創部 地域連携ユニットチーフ)、
馬場誠氏 (株式会社アイサイト 代表取締役)、本誌でもお馴染みの
ウィアム・リード氏 (山梨学院大学 教授)、
中川智博氏 (Tokyo Creative株式会社. 代表 ※オンライン参加)。また、オブザーバーとして武道ツーリズム事業者18名(オンライン参加含む)が参加した。
令和5年度「武道ツーリズム」実施報告
小会議はスポーツ庁参事官(地域振興担当)岡田専門職・西澤地域振興係の挨拶から始まり、その後、事務局から今年度の「武道ツーリズム」実施報告が行われた。一つ目の取組として紹介されたのが、
スポーツ庁の武道ツーリズムWEBサイト について。本サイトでは日本各地の武道ツーリズムコンテンツがジャンル別(9武道+その他)、地域別に多数紹介されているほか、関連動画や特集記事も掲載されている(英語、中国語、日本語の3言語で展開中)。また同サイトでは、武道ツーリズムの事業者への情報共有やネットワーク形成のため、
取組事例集や武道施設データベース などもリニューアル掲載されている。
またスポーツ庁によるSNSでの情報発信として、◎Facebookグループ
「武道ツーリズムの輪を広げよう」 (※参加者自ら情報発信が可能)、◎Facebook
「スポーツ庁武道ツーリズム推進ネットワーク」 (※B2C向け)、また◎Instagram
「武道ツーリズム〜Budo Tourism〜」 (※B2C向け)が紹介された。
最後にイベント紹介として、
弊誌2023年10月号 でも掲載した「
BUDOふれあいフェスタ2023 in Tokyo」 (相撲/忍者/空手体験、室伏広治スポーツ庁長官×日野晃師範×東口敏郎BABジャパン代表による武道トークショーなど)、
「ツーリズムEXPOジャパン2023」 でのスポーツ庁ブースプログラムの詳細(武道VR体験など)が発表され、今後のイベント案内として羽田空港での
「武道ツーリズムシンポジウム(仮) 」、
「デジタルプロモーション利活用セミナー(仮) 」の開催予定について報告があった。
VIDEO
和歌山田辺での合気道ツーリズム
続いて、令和4年度のモデル事業者取組事例の共有として、
株式会社TABIKYO JAPAN の
羽田明史氏 より、
合気道開祖植芝盛平 生誕の地 ・
和歌山県田辺 市における
「合気道ツーリズム」 についてプレゼンが行われた。
合気道の国際大会も開催されるなど、愛好者の間では“開祖 生誕の地”として認知が高い和歌山田辺での合気道体験と、熊野古道という世界的な人気観光コンテンツを掛け合わせた本ツアー。そのプロジェクトマネジャーとして羽田氏が直面した課題とアプローチについて発表があった。
羽田氏はまず、本事業における合気道の指導を担当する
五味田潤一師範代 (合気会五段)という、
地域のキーパーソンとの出会いの大切さ を説いた。植芝盛平翁の弟子であり田辺道場長・五味田聖二師範の息子である五味田潤一師範と羽田氏は、まさに一心同体となり情報を共有し、官公庁、地元事業者、販売元(
一般社団法人田辺市熊野ツーリズムビューロー )、また
合気会本部 などと密に連絡を取り合い、関係者一堂の
合意形成 に当たったという。
武道コンテンツへの値付け などは業界内でも難しい問題であるが、そこは羽田氏が“外部からの視点”をきちんと盛り込むことによって、しっかりと伝統への価値付けを行うことができたそうだ。
また、ツアー参加者向けには、合気道精通者であり他言語を話せるガイド経験者をアテンドすることで即効性のある体制を作るとともに、
未来の合気道ガイド育成 のための地域通訳案内士向けのガイド研修も実施された。
PR動画やパンフレット作成、メディアへのプレスリリース、モニターツアー開催(1回目;外国人/旅行会社向け、2回目:地元事業者向け)、効果検証などを行った後、スペイン、アメリカなど、また日本人からもツアーへ申し込みがあったという。
今後の自走化に向けて、今年度はプロジェクトの中心を羽田氏から指導者である五味田師範代へと移行することで、
地元関係者間・地域内での自走チーム作成 の強化に取り組んでいることなどが発表された。
パネルディスカッション「武道×ツーリズムのこれからについて」
最後に、
プロジェクト委員によるパネルディスカッション が行われた。一般社団法人日本スポーツツーリズム推進機構代表理事であり、またスポーツ庁における「武道ツーリズム」推進の最初期、その概念付けの時期から携わっている原田宗彦氏が座長を務め、進行された。
◎日本在住50年以上、合気道に精通し、居合道、ナンバ術も修めるウィリアム・リード委員からは、宮本武蔵の「見の目/観の目」という言葉を引き合いに、武道ツーリズムをどの観点から捉えるべきか、という話があった。武道に精通した専門家であるリード委員は「初心に還る」ことの難しさを日頃から実感しているという。武道ツーリズムにおいても、本当に役立つものを見極めるためにも
「観の目」 を養い、
「忙中閑あり」 との言葉の通り、インバウンド客が増加する中、「閑(かん)」=心の静けさを見出していくべきではと提案した。
◎日頃より地域資源の活用、まちづくり、地方創生に携わる利渉敏江委員は、「まちづくり」と「ツーリズム」に共通するポイントとして、「
コンテンツの力 (=オリジナリティ、地域ならではのストーリー性)」「
推進体制 (=地元の方々にサポーターになってもらうことで継続性にもつながる。特に行政を巻き込むことの重要性)」「
ブランディング (世に知らしめる)」の3点を挙げた。また、武道ならではの
「精神性、礼節、人への思いやり」「所作の美しさ」「品格」 など、人からにじみ出る日本人の特質は外国人も共感できるものであり、それらを道着や道場など“本物”を通して伝えるのにうってつけなのが、「武道ツーリズム」というコンテンツなのではないかと語った。
◎外国人目線で海外向けデジタルマーケティング事業を手掛ける中川智博委員からは、情報発信において
漢字の「武道」と英語の「BUDO」の適切な使い分け に関する提案があった。動画においては武道の凄さをどう発信するのが鍵となる。その際、「BUDO」的観点からの演出、抽出により、「武道はすごい」と海外の認知を取っていくことがファーストステップとなり、次の段階として漢字の「武道」の精神性なりが伝わっていくことで、「観る」から「する」へのフェーズ移行がスムースになるのではと語られた。その事例として、弓道インフルエンサーとして世界的に活躍している
ジェシカ・ゲリティ氏 等(弓と禅 you.me.and.zen)が、スポーツ庁のInstagramで動画を世界へ向けて発信している模様が紹介された。
◎スポーツツーリズム専門家の伊藤央二委員は、マスターズゲームスの研究を通して、「楽しみ志向」と「競技志向」、またその両方が混在している参加者がいることがわかったという。武道においても、
本格的「武道」志向と、エンターテイメント寄りの「BUDO」志向 が存在し得ると想定でき、研究的視点からも
2次元4パターンのグループ分け が可能ではないかと現在考えていると語る。それらグループにより「武道ツーリズム」の動向は変わってくると思われるので、
地域のプロファイリング分析 を行い、適応させていくことが大切なのではと提言した。
◎山形で観光プロデューサー/ファシリテーターを務め、居合発祥の地・村山市で居合道体験も手がけている馬場誠委員からは、まず「武道ツーリズムが向かうべき先」について関係者一堂が同席した
“開かれた話し合いの場” の設置、続けて、より良いコンテンツ造成のための
“モデル事業支援年数の延長” 、そして地域が苦手としている
“海外向けマーケティング支援” という、スポーツ庁へ向けた3点の提案があった。また、ライト層など、より多くの方々が楽しんで参加出来る
「天下一武道会」 のようなイベント開催企画とその意義についても提案を行った。
◎そして、ディスカッションの最後、原田座長からは
「武道×ワーケーション」の可能性 について言及があった。仕事と仕事の間にアクティビティを行うことで生産性が上がることは広く知られるところだが、そこで「武道」を行うことで、脳のデフォルトモードネットワークなど副交感神経優位になるなどの効果が実証されたら今後面白いのではないかとのこと。また、
流鏑馬 が全国で行われるようになれば、オリンピック競技化も見据えた展開も想定できるのではないかと、
「弓と馬」の伝統文化振興 という点からも興味深い提案が行われた。
本格的「武道ツーリズム」始動へ
今回の小会議では、すべての議事を無事に終えた後、場所を移してプロジェクト委員やオブザーバー参加者などが交流を深める交流会の場も設けられた。「面授」の大切さは武道でも説かれるところだが、コロナ禍も収束へ向かい、街中でも多くのインバウンド観光客の姿を見かけるようになった昨今、日本で武道を体験してもらうための関係者の準備も着々と進みつつあり、本格的「武道ツーリズム」始動の兆しが感じられた小会議であった。
(取材・文◎月刊秘伝編集部)
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