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大東流合気柔術 光道 錦戸無光総師範インタビュー


2014年4月、大東流合気武術 錦戸無光総師範にインタビューを行う機会を得た。北海道での修業時代、ご自身の解脱体験、心と自然体など、話題は多岐にわたった。その一部を紹介する。堀川幸道師範の身体と技について、合気の鍛錬、合気技法などについては、「月刊秘伝」2014年8月号にて、福岡での師範稽古会の模様とともに詳しく語られているので、本記事と合わせてご参照いただきたい。(写真提供:中村龍生氏)




wbDSC_1334.jpg──錦戸先生は堀川幸道先生の最晩年の弟子にあたるのですよね?


錦戸 最初の2年間は東京から堀川先生がお住まいの北海道に、月に5日づつ通いました。2年を過ぎた頃、堀川先生から「貴方を仕込んでみたい」とのお言葉をいただき、家族で北見に移住し毎日稽古に通いました。ある時、堀川先生の奥様から、「先生には脳軟化の障害がある」との話を伺いました。それを聞いた時、私は「あっ、時間がない」とすぐに頭に浮かびました。先生はその当時すでに80歳を超えていらっしゃいまして、私は仕事として整体をやっていましたから、脳軟化症がどういう病気かも分かっていました。ですから、もう必死です。「三年でものにしなきゃならない」と自分で決めました。そのためにはどうすれば良いかと考えたんですよ。一つには、武術には理合があるから、「よし、理合を掴もう」と。それから、「合気を掴もう」、「合気を理解しよう」と。三年でこの三つをものにすると心に秘めていたんですね。自分自身で「気が狂れたなんじゃないか?」と思うくらい稽古に打込みました。そのおかげか、私は北海道に居る時に合気を掴む入り口として「無」の状態を体験することができました。それを四年、五年でとやっていたら、とても掴めなかったのではないかと思います。


wbIMGP8258.jpg──北海道で体験された無とはどのようなものなのでしょうか?


錦戸 北海道では肉体の無、気の体を体験しました。肉体から気を私は体験したわけですね。これは肉体の解脱ですが、一種の悟りですね。それに対して心はまた異なり、心の解脱となります。ある時じっと座っていたら、魂と心がはっきり別物であることが見えたんですよ。魂は無で、心は空でした。心はここにあるんですが、空なんです。だから悪いものを入れたら、人間は気がついた時には悪いことをしてしまいます。だから心には良いものを入れる、心があったかくなるものを入れておかないといけません。魂は宇宙を創造した命ですから、それが汚れるとか、育てるとか、作っていくとか、そういうことはできないんですよ。ここは間違いやすいところなのですが、育てるべきは魂ではなく心なんですよ。


wbIMGP8480.jpg──合気においても、心を高めていく、調えていくというのも必要なんでしょうか?


錦戸 光道では基本の稽古の時から、心を使うんですよ。やはり剣でも何でも、まず心を正しくしなければいかんと言われているじゃないですか。今はそんなこと言わないかもしれませんが、昔の武術家はみんなそうやって心を鍛え作り上げてきたんですよ。心は大事ですよ。一瞬にどこにでも行くんですから。こうして稽古して心が働くようになると、同時に気も働くんです。そういう体になるんですよ。それで合気の稽古をすると、ひとり座っているだけでも、無我の世界に行けるじゃないですか。これは素晴らしいことでしょう。無我の世界に行けば行く程、和が高まるし、愛も高まって強くなるんですよ。何人来ても、争いを防ぐんですから。


wbIMGP8150.jpg──和を高めるという大東流合気柔術の特色は剣術で戦っていた時代が終わり、世の中が変わってから出てきたのでしょうか?


錦戸 いいえ。剣術で戦った時代の前からあるんですよ。例えば、会津藩の家老や上級武士ですね。そういった人たちは、殿様を護るために賊に掛かられても、服装を乱したら駄目だったんですから。乱れただけで批判されたんです。これが柔術ですととてもそうはいきません。私も柔術を15年稽古したから分かりますが、ずっと足を開いてやりますからね。だから服装なんかがこれっぽっちも乱れない技を使うためには、自然体でなければなりません。そうして殿中技として合気が発達してきたんですよ。私がやっている稽古は、自然体を作り上げていくんです。例えば幼い一本の木が大木になっていくとように、合気の稽古をすると、大木の体と心になっていくんですね。大東流の稽古はそれを作り上げていくんです。堀川先生の御姿は、気が詰まりきったものすごい体だったんですね。堀川先生は教師でしたから労働仕事したことないんですよ。それでいつも「何でこんなにすごい体になったんだろう?」と疑問に思っていました。武田惣角先生の写真を見ても、ものすごい体しているのが分かりますよね。そういう体作りを大東流では初歩の稽古からやっていくんですよ。
 自然体を作り上げることとは、自然に活きることですよね。無理がないんですね。それがいずれ大木になる。自然体を大木にしていかなきゃならんとですよ。これが光道の稽古なんですね。だから光道の技は女子武術としても最適ですよ。女性が入門したら、自然体を作り上げていくわけだから、もっともっと綺麗な姿勢になっていくんですよ。普通は男みたいな体になるところ、自然体を作り上げていくんだから、女性はますます美しくなる。自然体に気が満ちて、そしたら今度は合気が満ちるんですね。堀川先生はそれを自ら体現してくださっていたんです。


──本日はありがとうございました。




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