本年3月、重力に身を任せた独創的な身体操作で知られる「野口体操」の創始者、野口三千三師の没後25周年を迎え、その思想と体操を現代に伝える「野口体操の会(代表:羽鳥操)」では去る2022年10月10日、東京国立博物館内・庭園にある「応挙館」にて、「野口三千三先生を偲ぶ会」が催された。
会では、参加者全員で寛永寺にある野口師のお墓参りをした後、応挙館にて放送大学特任教授の魚住孝至教授による記念講演「日本文化・思想において野口体操を考える」が行われた。また、同月23日には高円寺お蔵スタジオにて、トラペット奏者として知られ、野口体操にも縁深い曽我部清典氏による「献奏会」も催された。
これらの活動を通じて、改めて創始者野口三千三師への想いを新たにした野口体操の会では、会報「早蕨」の特別号「野口三千三を偲ぶ」を発刊。上記、偲ぶ会や献奏会の模様を抄録すると共に、多くの特別寄稿で在りし日の野口師との思い出や野口体操への想いが綴られた。スペシャルコメントでは東京大学名誉教授の養老孟司氏や明治大学教授の齋藤孝氏などの著名人もコメントを寄せている。中でも、羽鳥代表による「私家版 野口三千三伝 東京編『野口三千三とプロレス』」は、武道・格闘技愛好者にも興味深い内容だろう。その文末では、村松友視の『私、プロレスの味方です』に言及しながら、「著者が言うプロレスの胡散臭さは、体操の常識をことごとく壊している野口体操に向けられる“胡散臭さの目”と相通じる何かがある(中略)野口三千三の体操は、これまで書いてきたボディ・ビルやサーカス、今回のプロレスと、様々な関わりの中で育って行く。さらにはヨガや演劇にもおよび、野口は野口流の胡散臭くも“過激な体操”を編み出していくのである。『体操の中の体操』に安住しない野口のあくなき探求によって、世にも稀な『野口体操』は、こうして生まれたのである」と語る。
日本人の感性の中から新たに生み出された「野口体操」。その真価に、今後ますます注目が集まることを予感させた。