2015年1月、武術界の巨星が逝った。極限まで無駄な動きが削ぎ落とされ、まさに"一瞬"のうちに決めてしまう岡本正剛師の合気技法は、もはや「空前絶後」の領域に達していたと言えるだろう。何しろ、その手を取りに行った者は、掴んだ瞬間にはすでに宙を舞わされているのだ。
本書は『月刊秘伝』誌に1990年から2010年まで、実に20年にもおよぶ期間において掲載された記事の数々を厳選して一冊にまとめたものだ。
岡本師が唱えていた合気の原理「円・反射・呼吸」をはじめとし、本書におけるその技法追究の深度はこの上なく深い。また、2005年に実施された高速度カメラ撮影による画像もあますことなく収録し、絶技「触れ合気」や「合気上げ」のメカニズムにも鋭く迫っている。
そして何より興味深いのは、20年にわたる間の岡本師の技の進化だ。最晩年まで錬磨され続けていた岡本師の技は「大きな円」が「小さな円」となり、ついには「点」、つまり、もはや見えないレベルにまで至る。
岡本師が"永世名人"堀川幸道師のもとに弟子入りしたのは38歳の時だったというが、その決して早くない入門にして「達人」にまで昇り詰めたその秘密はいったい何だったのか?
また、人格者としても知られ、そのもとに集う者後を絶たなかったその人柄についても、教えを請うた他流有名武術家や長年師事し続けてきた高弟などの貴重な証言が収録されている。
本書は、偉大な武術家の記録である。そして、史上、極めて重要な記録だ。