日本刀剣を用いた武道・武術の中、剣術を表看板とするならば、〝裏看板〟とも言える居合・抜刀術は、その「形、思想、稽古法」と、もっとも〝日本的〟な武道・武術であると言えるのではないか。
だからこそ、今なお多くの者を惹きつけ、その道は現代へと続いている。
本特集では、現在最大の修練者を有する名流から、知られざる古流諸流の戦術と稽古法、そして現代を代表する達人の居合観、身体操作まで、古今を貫く居合・抜刀の哲学と実践─、
日本武術が生んだ至宝の術と道について、改めて稽えてみたい。
現代居合の世界において、最大級の修行者人口を持つ無雙直傳英信流。
そんな名流の長として尊敬を集める、居合道の大家が江坂靜嚴範士である。
特集第一章では、日常の中で磨かれる、刀を抜く前に在るべき居合の身体と、正しい居合を正しく後世に伝えるための精髄を、江坂範士に語って頂いた!
正統正流無雙直傳英信流居合道国際連盟会長・江坂靜嚴
武術を学ぶとは「日常の動きをアンインストールして、古流の動きをインストールする」こと、実はそれに最適な稽古法こそが居合なのだ!
本コラムでは、先達の研究や自身の居合修行を通して得た気付きなどを、note記事「古流と居合」にて投稿している白いくまもん(小西)氏に、誰しも浮かぶ疑問「居合はなぜ速いのか?」をテーマに、〝制約〟だらけの居合稽古から学べ得るものについて紹介いただこう。
特集第2章では「古流居合」各流儀に伝わる、技法、戦略、思想、稽古法、そして【上下・前後・左右】と360度にわたる〝戦いの理合〟について紹介していこう。
第一部として、まずは居合技法の発祥から平時の武術への変遷、鞘の内に秘められた身体操作の要訣、また、古流居合ならではの豪快かつ精密な「跳躍技法」について考えていきたい。
武術に長けていた松平定信(楽翁)に庇護され、桑名藩に伝えられてきた山本流居合術。
戦中における実戦での刀の実際に通じた成瀬関次らにより、現代へと繋がれた〝実戦居合術〟の所作・技法・体系について、十六代宗家・早坂義文師範に紹介いただいた。
山本流居合術十六代宗家 早坂義文
新陰流の中に伝承されてきた「制剛流」。その術技は、世に知られる名流の剣に確かに影響を与えるものであり、また小太刀、無手で制することにもつながっている。
ここでは同流の特徴的な〝短い刀〟を活かし、相手の右の場を取り、自らの左肩側を入れて勝つ「右勝左生」の理を、井澤秀雄師範に紹介いただいた。
特集第三章では、「居合は身体の捌きを身につける上で役立つ」と言う日野晃師に、居合の要素をどの様に稽古に取り入れているのかについて聞かせてもらった。
真剣を持って対峙する相手を常に想定しながらの稽古によって、〝実際に斬れる〟体の使い方を身につけるとともに、〝相手に対しての気迫〟こそが「鞘の内」を成り立たせているという事を感じる事ができる。
真に使える身体操作をつくり上げるための〝日野式〟居合稽古法を示す!
日野武道研究所・日野晃
スクリーンの中の達人たちが、鞘の内から見事に表現する「日常と非日常」の境界線。本コラムでは、歴史を愛し、映画を愛し、殺陣をこよなく愛する作家の脇坂昌宏氏が、時代劇における抜刀名場面とともに、「日本映画と居合殺陣論」について筆を振るう!
NHKの大河ドラマの殺陣を50年以上にわたり手がけるなど、殺陣の世界で第一人者として長く活躍してきた林邦史朗師範が亡くなって、この10月で5年が経った。
師である林師範とともに、殺陣の講師として活動し、また師のワークショップの運営などを支えてきた山野亜紀師が、このたび師の功績と殺陣師としての意志をまとめた追悼本を制作した。
長らく師の傍らで、その殺陣哲学を感じとってきた〝女・邦史朗〟山野師が、追悼本に込めた思いから、林師範から受け継いだ殺陣師としての志までを語る!
完全な技──相手の体格やパワーに左右されず、 痛覚の鈍る実戦の場においても効かせられる究極の武技を求め、 長年にわたって打撃・殺法を錬磨してきた岩城象水師範が 最終的にたどり着いたのが、力を完全否定した「やわら」である。
それは既存の合気でも柔術でもなく、 老子が万物の根源と説く「玄」によって象られる新たな武芸。 あらゆる武術の行き着く先、「やわら」の術理をここに示す!
江戸時代中期以降、特に関東を中心に盛んに行われた、 防具・竹刀により実際に撃ち合う稽古法「撃剣」。
現代の剣道とは異なり、「組む・投げる・極める・絞める」が 総合された技の研鑽は、実は剣術に於ける 原点回帰のムーブメントだったのかもしれない。
実際に撃ち当てるからこそ見えてくる 「剣と刀の理」を探っていこう!